えがおファーム農縁長「きよ」インタビュー

ITのエンジニアだった農縁長「きよ」が、普段何を考えて畑仕事をしているのか。なぜ脱サラして畑仕事を始めたのか聞いてみました。

普段の生活や、農園を運営することになったきっかけ、苦労したことなどが盛りだくさんですよ。

えがおファーム農縁長の働きかた

−キヨさんの日常を教えてください。

日の出とともに目が覚めます。冬は霜は降りてるので、10時〜15時くらいまで畑仕事。春と秋は日の出から日の入りまで、ですね。

夏は気温が40度になることもありますし、体温を超えると働いてはいけないと信号が出るので、日の出から11時くらいまで畑仕事をし、午後は休みます。そんな生活をしています。

−普段の作業は、あらかじめやることを決めていますか?

基本的には優先度の高いものからやって、優先順位が低いものは後回しにします。雨が降っている時は、収穫しなきゃいけないものがあればやりますが、雨が降ったら畑仕事はお休みです。「晴耕雨読」になります。

2012年に畑仕事を始めた当初は、システムエンジニアもやってたので、頼まれた仕事のスタイルに合わせて農業も行っていました。

農業との出会いは市民農園に興味を持ったことから

−農業に関わるきっかけを教えてください。

最初は趣味で市民農園をやろうとしたんです。

前の奥さんと東京都の青梅市に住んでいました。通勤途中、住宅地の間にある耕作放棄地を見てて、「ここで妻とふたり分のお野菜が育てられるといいな!」と思ったのがはじめのきっかけです。

ですが青梅市の市民農園は、場所貸しだけで畑仕事を教えてくれる人がいなかったので、山梨県にある「週末農園ホトト」 に行き始めました。2010年の3月のことです。

そこで、人生が変わりました。

その時私は、体調を崩していて薬がないと仕事ができなかったんです。でも、畑仕事していると、薬がなくても生活できるようになりました。

実際にお野菜ができてきたんですが、奥さんと2人では消化しきれません。そこで「自分で作った野菜です」と会社に持っていくようになるんです。

そしたら週明けに感想がもらえるんですよ。「美味しかった」とか「ありがとう」とか。

そもそも、私のポリシーが「自分が関わったプロダクトで人を笑顔にさせる」だったので、野菜づくりでポリシーを実現できたことに気付きました。

「野菜はリアルで笑顔にできる」、「やれた!」と強く感じました。

現在は農業体験で人を笑顔にしている

−そこから、実際に仕事にするまで、「農業」をどのようにスケールアップさせたのですか?

野菜作りの楽しさを知れたスクールは1年で終わりました。そこでどうしようかを考えていた時に、現在のえがおファームの土地にご縁があり、1000平米借りて週末農業が始まりましたが、最初の1年はまともにできませんでした。

さつまいもはなんとかできましたが、ほかの野菜は微妙でした。

また、いきなりは農家になれないんです。基本的に親や祖父母、近しい親戚が農家じゃないと簡単になれないんですね。

埼玉県で新規就農をしたければ、3年研修しなさいと言われ、2012年の4月から研修生になりました。

そこで会社員も辞め、エンジニアと農家の二足のわらじで活動していくことになります。

14年の年度末に埼玉県や坂戸市、JAの担当者の面談の結果認められ、えがおファームとして正式に農家の道を歩んでいきます。

−影響を受けた人を教えてください!

スクールで教わった水上篤さん。山梨県内で飲食店の経営もやっています。私はビジネスをとっても大きくする気は無いですが、とても刺激を受けています。

また会ったことないですが奇跡のリンゴの木村さんにも影響を受けました。栽培の師匠は特にいなくて、独学で学んでました。

昨年からガッテン農法・三浦伸章さんのセミナーを受講しています。この方のお話は自分の中で腑に落ちることが多いので、継続的にセミナーへ参加しています。三浦伸章さん著書

「きよ」のビジネスの在り方は「お客さんが笑顔になるか」

-今の仕事を始めて、過去との変化はありましたか?

変化どころか、すべてにおいて真逆です。これに尽きます。

畑仕事をやってて楽しいですし、精神的にも良い状態です。本当に、苦になるものが無いんです。会社員の時は本当にしんどく、僕にとってがやらされ感が大きかったです。

畑仕事とITとどっちかな?と迷う時期もあり、2018年はSEの仕事を兼業で9ヶ月続けてみました。そこで、「IT業界は最後だな」と踏ん切りがつきましたね。
でも、まだ(ITのお仕事の)お誘いが来るのが悩ましいところですね。

-ビジネスを始めるにあたり、不安はありましたか?

細かい不安は特になく、結局は「売り上げとしてどうなの?」くらいですね。絶対条件として「お客さんの笑顔が見たい」があるので、そこを満たせればほかは特にはないです。

不安を乗り越えて、今のビジネスを始めた理由は、不安より期待が大きかったのが一番です。

−畑仕事を始めて、いちばん最初の試練は何でしたか?

農業体験のことですが、お客さんが思ったよりつかななかったこと、ですね。

一般的に、農業体験は「果実狩り」のイメージが強いのか、お野菜のイベントの反応がないんです。体験イベントでは野菜って収穫した時の充実感がないんですね。

結局、土の中から取り出すと、収穫した感が出るので「根菜」にしてみました。さつまいもとか、じゃがいもとかですね。根菜の収穫体験や夏のBBQは人が集まりますね。

今の農業体験のフォーマットは2016年くらいに固まりました。午前中収穫し、お昼を食べて、14時くらいに帰る。気軽に楽しめると好評です。

−ビジネス上で発生した敵、助けてくれた仲間はいますか?

既存の流通全般(市場など)は敵です(笑)

生産者を無視して、市場の値付けを元に販売側の利益を上乗せした値段をつけるために、生産者を無視しているからですね。そういった意味だと、楽天市場も敵です(笑)

味方は「食べチョク」や「ポケットマルシェ」。生産者と生活者、双方のことを考えた一次産業に特化したECサイトです。生産者側に値付けをさせるので合うんです。

私はフェイスtoフェイスでお野菜を提供し、笑顔になってほしいと考えているので、ここは理念にあっています。なので販売手数料とか関係なく応援したいと思います。

−ビジネスを成功させる上で、必要なリスクは何ですか?

定番ですが会社員やめると安定収入がなくなるのはリスクだったのですが、会社をやめたら、精神的に良くなったのでリスクと感じませんでした。

また、どうやってお客さんになってもらうかは、商売をやる上で永遠の課題だと思っています。今は、ECと農業体験、ポータルサイトを使って販売できるのは強みですね。

えがおファームは無肥料・無農薬を掲げているんですが、周りは肥料使うので孤立しちゃんですよね。で、集まりの際は周りと話を合わせますが、実際はやりません。

平均年齢65歳、42歳(私)が最若手で次が60代って世界です。

なので、話が合わなくても、そこでは話を合わせるが正解かなと。農家は孤立すると色々厳しくなるので、話はしっかり合わせますし主張はしません。

農業体験を続けられていることこそが成功

−もっとも困難な状況に陥ったときはどんな時でしたか?

2015年、2016年ころ、お金が想定以上に減って「農業撤退」か「取り崩して農業をやるか」に迫られた時ですね。そこで、取り崩してでも農家をやる選択をして、今があります。

−成功したこと、失敗したことを教えてください。

農業体験を大きなビジネスモデルにするのは上手くいってないけど、それを細々と続けられているのは、ある意味成功かなと思います。毎回お客さんが来て喜んでもらえる場所作りができて、それが何年も続けられているのは、成功ですよね。

ビジネスをやる上でお金はとても大事ですが、自分にとっての成果物が「お客さんの笑顔を見ること」なのがわかりました。なので、お客さんが喜んでくれた時点で、成果達成な感じです。お金のことを二の次にしちゃうから、いろいろと大変なんですけどね。

ポリシーのひとつとして「お世話になったものことの恩返し」があります。自分は農業に生かされたので、畑に対して恩返しをする。

自分なりの返し方で、農業体験、マルシェで売る。お客さんが最終的に喜んでもらう。リアルを重視し、リアルの場で喜んでもらう場を提供し続けたいですね。

語り手:えがおファーム農縁長「きよ」
聞き手:橋本憲太郎

職業:百姓
資格:食品衛生管理者、料理人(その他)
好きな料理、食べ物:シンプルな創作料理、青魚、豚肉
畑と食から笑顔をお届けする百姓、えがおファーム「きよ」です。
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